DUSKDAWNDUST

このたびPARCEL(馬喰町)は、island JAPAN(原宿神宮前)と同時開催で、BIEN個展「DUSKDAWNDUST」を開催いたします。PARCELとしては初となるBIENの個展となります。

BIENは、1993年東京都生まれ、ストリートカルチャーやアニメーション、フィギュアなどの表現に影響を受けた独自のドーロイングに基づく、抽象絵画やインスタレーション作品を制作してきました。人が生み出した文字や記号、マンガやアニメのキャラクターなどのかたちを躍動的な線でなぞり直し、ストリートカルチャーやアニメーションの文化が持つ様々な表現様式を受け継ぎ、昇華しながら、記号的な意味の解体と再構築を試みています。

3年ぶりとなるペインティングを中心とした本個展においては、パズル状に組まれた支持体に、カメラの捉えた光を抽象化した色面をおき、ドローイングのラインを、フィクションと現実の混在する世界を紡ぐように描いた新作を発表します。ソースとなる写真などもインスタレーションの一部として展示予定です。

また、C.C.P. ( CALM & PUNK GALLERY )のキュレーションにて、ED DAVISと共作した新作展も神宮前DOMICILEで3月26日から4月11日まで開催いたします。合わせてご高覧くださいませ。

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自粛期間中の空気が澄んだある日、近所を散歩していた。目的なく歩いていると夕暮れ時になり、西に落ちる太陽から、そこに立つすべてのものが一斉に同じ方向に影を作った。こちらに突き刺さるいくつもの影を感じながらふと思った。いつも街は光にあふれており、僕は全ての影が一斉に同じ方向を向く瞬間など久しく見ていなかった気がする。火すらなかった時代、地球には太陽という一つの光源しかなく、地球上の皆が同じ光のもと同じ世界を生きていたとするならば、あの日に見た光景は「遙か昔」に最も近い瞬間だったのかもしれない。

これまで僕は「フィクションとノンフィクション」という世界を隔てて考えてきた。しかしスマートフォンという「ひとりの光」を持ち歩いている今、世界は分かりやすく「ひとりにひとつ」のものとなり、誰もがその世界の中を生きている。そしてコロナウイルスによって世界中の先行きが見えない今、物理的にも個人は分断され、現実はフィクションを追い越し、フィクションは現実に介入してきた。世界中で更新されるインスタグラムに映る日常の風景は、映画のワンシーンの延長線上に見えてくる。今まで僕はアニメのキャラクターや文字など、記号をモチーフとしてドローイング作品を制作してきた。しかしフィクションと現実が混在しているのならば、表象的イメージをドローイングをすることは、空想の世界を形作るだけではなく、フィクションと現実の境界を壊し、線を引いていることに等しいのかもしれない。飛蚊症によって眼球に映り込む線のように、逆光の中に立ち込めた埃のように、太陽の光、スマートフォンの光、分断されたそれぞれの物語を繋げるようにドローイングをしていく。」 – BIEN

Ba de ya

今回PARCEL では彫刻家、森靖の個展「Ba de ya」を2020年9月26日より11 月 8 日まで開催いたします。PARCELでは初となります彫刻の展覧会です。本展に際して、自身も作家であり、同校出身のSIDE COREの松下氏が以下の文章を寄せくださいました。

気が滅入る程彫り込まれたディティール、荒々しい寄木とひび割れ、そして艶かしく露出する木の節やノミ跡。森の作り出す木彫作品は、まさに 彫刻が持てる空間的な存在感を拡張し尽くしたような、重厚感に溢れる表現です。造形の写実的表現においては仏師や宮大工の卓越した技巧性を感じさせますが、木のウネリやヒビ割れを意図的に利用する造形は、素材そのものの美を生かした全く異なる表現です。森の彫刻にはこの2つの相対する自然(描写 / 素材)が鬩ぎ合っています。またずっしりとした木の質感を生かした表現も特徴で、身体の形に彫り込まれていてもなお、 木が根を張って大地に立っていた頃のような重力を感じさせます。近現代の彫刻史の中でもこれほど木を彫りこめる彫刻家は数少ない、歴代の彫 刻家達にそう言わしめる程森は卓越した彫刻家です。

森靖は 1983 年に愛知県に生まれ、2009 年に東京藝術大学大学院の彫刻専攻を修了しました。学生時代から脚光を浴びていた森は、2010 年山本現代で初個展「Can’t Help Falling in Love」を開催し、大きな波紋を呼びます。そして翌年には横浜トリエンナーレ「OUR MAGIC HOUR ー世界は どこまで知ることができるか?ー」に出品するなど若くして目まぐるしい活躍を見せました。しかしその後、森は作品発表を止め、一つの巨大な 彫刻作品の制作に取り掛かります。その巨大彫刻とは人体の木彫作品としては類を見ない、4m に達するエルビス・プレスリーをモチーフとした 作品です。今回の展覧会はこの彫刻完成後初のお披露目となる、10 年ぶりの個展となります。

この巨大なエルビスプレスリー像は雌雄同体の姿をしており、ずっしりとした姿形や右手をあげる仕草は明らかに大仏を連想させ、また荒々しい寄木は今にも崩れ落ちる岩山のようです。非常にキャッチーなロックスターの人体彫刻でありながら、今にも崩れ落ちそうな荒々しさ、そして大仏を思わせるその精巧な造形が神聖さと危うさを同時に醸し出しています。このような作風の背景には、彫刻造形の限界に挑む意識の表れであると共に、この彫刻に森が取り掛かり始めた 2011年の東日本大震災との関連性を思い起こさせます。

日本で最初に作られた大仏は奈良の大仏とされていますが、その建造に背景には仏教を広げるという目的と共に、その時代に起こった様々な厄災を払うことがありました。また上野には顔大仏と呼ばれる顔面部だけがレリーフで残された大仏がありますが、これは関東大震災によって破損した後、胴体は戦時の金属供出によって失われたという逸話があります。本作も偶然か意図的か、最初は顔だけの作品として彫られ、後に胴体を足していくことで完成した作品と森は語ります。 コロナ禍の状況を踏まえ、現代の社会の混乱に対して、大仏を想起させる本作は嫌が応にも象徴的な意味を持ちます。震災から9年との時が経ち、 そして世界的に彫刻が引き倒されている現代において、彫刻の創造と破壊が混沌と混じり合う森の彫刻こそ「今見るべき」表現なのではないでしょ うか。

– 松下徹(SIDE CORE)

本邦初公開となります、大型彫刻作品を始め、未発表新作など、現代彫刻における若手最高峰と評される森の技術と表現をぜひご高覧いただけますと幸いです。