き

この度PARCEL では2020 年1 回目の企画として箕浦建太郎の個展「き」を開催いたします。
1978 年静岡県に生まれ、幼少期から浅草で育った箕浦は今日まで東京を拠点とし、画業の傍これまで銀杏BOYZ のCD ジャケットのデザインや写真家川島小鳥氏との共著など、幅広い活動で知られてきました。

幼い頃より途切れることなく絵をかき続け、その過程で多様性を受け入れ流してきた結果、箕浦が現在描くものは自身の経験の蓄積が精査され削ぎ落とされても捨てるに捨てられない要素が擬態化し、生物的な何かとしてキャンバス上に現れています。それは今日の作家の多くもそうであるように、キャラクターやアニメ、ゲームをはじめ、映画や音楽、ストリートカルチャーなど境界線を特に意識することなく幅広いカルチャーに触れて育った箕浦自身を反映した肖像とも言えます。

古典技法からスプレーなどの現代的な身近な画材を使用し続けることにより育まれてきた多彩な色の積層や鋭利で曖昧な表情は、肉眼で絵画を見ることを改めて私たちに問いているようです。

特定不能な画面上の空間に放置されている存在たちは、過去の蓄積や忘れ去られたカルチャーを示しているかのように、または社会システムの中で埋もれもがいて消えかけている人々かのように、発見される未来を待ち望む哀愁に満ちた表情を我々に投げかけるのです。

PARCEL としては初めてとなります箕浦建太郎の個展、ぜひご高覧ください。

A New Career In A New Town

この度PARCEL では角田純の個展「A New Career In A New Town」を開催します。
1980 年代からデザイナー/ アートディレクターとしての活躍を広く知られている角田ですが、その裏では30年以上に渡って絵画を制作し続けてきました。彼の絵画は淡い色面や繊細なラインが特徴で、象徴表現でありながら光や音を感じさせます。作品からは一見素朴な印象を受けますが、同時にカウンタカルチャー特有の軽快さや、幻覚作用がもたらす視覚効果を感じさせます。切り詰められた表現の中に多様な文化様式や視覚的実験が反映されていることこそが角田の作品の魅力なのです。また同時に山梨県北杜市にある” Gallery TRAX”のディレクターとして、国際的に活躍する多くのアーティストを輩出してきたことで知られている他、作家との一点物の衣服を発表し続けたファッションブランド” Poetry of Sex” のディレクターとして、カウンターカルチャーのアートとファッションの融合を開拓したパイオニアの一人としてでもあるのです。今回の展覧会では角田の新作絵画の発表を中心としながら、作家の制作背景にある収集物や資料、また過去の創作物などを構成しスタジオ空間を模したインスタレーションを展示します。

2012 年に川村記念美術館で開催された「抽象と形態」において、角田の作品はジョルジョ・モランディの静物画と対比されて展示されました。モランディの作品は一見静かな静物画でありながら、配色のバランスによって色面ごとの境界線に揺らめきを表現しています。角田の作品もまた色面構成されたバックグランドに細かく描かれるドッドや線描が、画面の中に揺れるような動きを感じさせます。「静によって動を生み出す」表現に2 人の共通性を見出すことができますが、角田はこのような表現の成り立ちには瞑想や幻覚体験(ハルシネーション)の影響を指摘します。普段より色が鮮明に感じられ、光や物の輪郭が渦を巻いて動いて見える視覚体験を角田は絵画の描写や配色に反映しているのです。同時にグラフィティや書道に造詣が深い角田の揺れるような描線はそれら「文字を追求していく文化」が影響しています。つまりサイケデリックアート(幻覚美術)からグラフィティや書道まで、多様なアウトサイダーアートの表現様式を検証し、独自に編集していくことで彼の作品は作られていくのです。このような角田の「超感覚や反知性主義」的表現はスピリチュアリズムに明らかな類似性があり、シュタイナーのドローイングを始め、2018 年にグッゲンハイム美術館で個展が開催されたヒルマ・クリントの作風にも近しい印象を受けます。実際に角田はスピリチュアリズムに傾倒した90 年代に、山梨県に拠点を移した過去があります。

今回の展覧会では作家を招いたトークを開催するほか、過去の資料までを展示することで、過去のデザイナーとして仕事やGallery TRAX での活動。また現在の作品制作に至るまでのスピリチュアリズムに関する見解など、角田の作品の背景にある出来事を広く検証する機会となります。是非ともご高覧ください。

space|aspec

この度、PARCEL では小牟田悠介個展「space | aspec」を開催いたします。
シンメトリーに展開する幾何学模様、色と形のバランスの絶妙な配色、そしてグラデーションや掠れが作り出す微妙なニュアンス。シンプルな色面構成でありながら、小牟田は高度に計算された構図と配色が絵画の中に多様な空間と動きを生み出します。また、下地を磨き上げられたキャンバスに、ハードエッジに塗り分けされた塗装。本来は冷たさや平たさを感じさせるような仕上がりな筈が、光の温度や空気を感じさせます。小牟田の絵画はミニマムかつソリッドな表現の中に、絵画の持つ空間表現の多様性を見ることができるのです。

小牟田の代表的な作品群は、折り紙で作られた飛行機や鶴、その折り線の展開図を元に幾何学模様の絵画を描いたシリーズです。折り紙とは、紙/ 平面をアルゴリズムに沿って変形させていくことで、平面を立体的な造形としての「状態」に至らせる行為です。例えば鶴を折ったとし、その構造がいかに強度であれど、展開さえしてしまえば元の平面に戻ります。つまり折り紙における造形とは「作ること/ 元に戻すこと」の行為と「2次元と3次元」の中間に置かれている状態であり、造形性を定義しているのはメディウムではなく折り方のアルゴリズムです。

小牟田の作品はアルゴリズムの導き出した運動の痕跡である「折り線」を色彩の塗り分けによってなぞり、幾何学模様を生み出していくことです。塗り目はシンメトリー図形として展開し、光がプリズムに分散していくように規則的な色彩空間が展開します。しかし小牟田の絵画は単にジオメトリックなパターンが平面上に展開されるだけではなく、パターンの連続の中に、幻想的な空間が浮かび上がるところに特徴があります。その空間とは、まるで光に包まれた教会のようでもあり、また水晶洞窟の内部のような、光が溢れ踊る空間です。2次元と3次元を自在に変容する折り紙、その展開図から導き出された小牟田の抽象絵画は、絵画でのみ可視化することができる光溢れる場所に私達を誘います。また今回は、小牟田が近年制作しているシリーズ、鏡面ステンレス板に折り紙の展開図を刻印する作品も発表する予定です。同シリーズは2014 年~2017 年瀬戸内国際芸術祭にて犬島で展示された他、2016 年~ 上越新幹線の特別車両「現美新幹線」においても展示されています。また小牟田は2013 年にSCAI THE BATHHOUSE にて個展「Color Unfolds」を開催の他、同ギャラリーより世界各国のアートフェアにも出品しており、国際的な活躍を期待されるアーティストです。

今回PARCEL が小牟田の個展を開催するにあたり「具体的に話す、抽象絵画」を題材に、小牟田と同世代の抽象絵画を製作するアーティスト達とのトークセッションをおこないます。マーケットが先行してしまう故に、絵画に関する批評空間の存在意義が失われつつある現代のアートシーンにおいて、現在の絵画が置かれている状況を確認する為に「絵画作品の解説・検証」の場を持ちたいと考えております。曖昧さや雰囲気に誤魔化されない小牟田の絵画だからこそ、展覧会と合わせてこのようなトークセッションは貴重な機会となることでしょう。是非ともご高覧いただけますと幸いです。


COMIC ABSTRACTION BY WRITERS

この度、6月に新しくオープンするギャラリー「PARCEL」のこけら落としとして「COMIC ABSTRACTION BY WRITERS」と題したグループ展を開催いたします。

この「COMIC ABSTRACTION BY WRITERS」というタイトルは2007年にMoMAで開催された「Comic Abstraction」という展覧会に由来します。同展はポップアートの文脈からコミック表現を脱却させ、インターネット時代の新たな視覚言語として読み直すという内容でした。それから4年、ヨーロッパを拠点としている一部の作家が自分たちの活動を表す名称として、同展覧会のタイトルをそのまま使用しはじめます。これはロンドンのGalleries Goldsteinで2011年に開催された「Asbestos Curtain, a new phase in Comic Abstraction」という展示に端を発し、当時の参加者の多くがグラフィティ・ライターでありながら、アートからファッションやグラフィックデザインまで領域を横断的に活動するアーティスト達でした。

1970年代後半のグラフィティの誕生より、ライター(グラフィティを描く人達)はレタリング表現、つまり文字をいかに面白く表現するかを競い合ってきました。次第に一部のライター達がレタリングの横に加えてコミックキャラクターを描きはじめます。ディズニーなどのメジャーなキャラクターや、ヴォーン・ボードのアンダーグランドコミックのサンプリングから始まり、1990年代にはライター達が独自の「グラフィティらしい」オリジナルのキャラクターを創出し、街の壁に描き始めました。

Mural by , Stachu Szumski

続いて90年台後半から00年台半ばにかけては、世界各国のライター達がこのようなキャラクター表現を発展させ、より抽象的で脱記号的なコミック表現へと発展させていきます。(これはインターネットで二次創作コミックスが広まる時期と重なります。)最初は1つのキャラクターの姿をグラフィティに描くことから始まり、そのうちにキャラクター同士をコラージュしたり、またはコミックスに見られる背景の描画や吹き出しまでを表現に取り込み、コミックが生み出したあらゆる表現様式を作品に取り入れていきました。

グラフィティは元来書道やカリグラフィーのように、文字の抽象表現を発展させていくアートフォルムでした。故にグラフィティの表現世界から生まれたComic Abstractionは、コミックスを解体し、新たな時代の視覚言語として再構築されたムーブメントと言えるのです。ライター達は世界各国のコミックスやアニメーションの歴史を掘り下げながら、都市の壁からインターネット、ファッション、グラフィックデザインにいたるまで、様々な分野のフィールドに表現を侵入させていっています。本展覧会はこのようなComic Abstractionをひとつの動向として大体的に取り上げる、世界でも希にみる機会となります。

参加アーティストは、アメリカのグラフィティ史における功績はもとより近年現代美術シーンでも評価が高いTodd James。ヨーロッパのグラフィティシーンのオリジネーターの一人で、アニメーションからインスタレーションまで幅広い表現を実践するフランスを拠点に活動するAntwan Horfee。そして自身のファッションブランドGasiusのディレクターを務めながらも、Comic Abstractionに関する企画を最も精力的におこなうイギリス人アーティストRussell Maurice。他にはポーランドを拠点にしているZbiok、Stachu Szumski、日本からはDIEGOといった、Comic Abstractionのシーンから選び抜かれたアーティスト達です。 是非ともこの重要な機会をお見逃しないよう「COMIC ABSTRACTION BY WRITERS」をご高覧ください。